PROJECT STORY 03MARUWAの照明が
街を照らすまで

PROJECT STORY

「LED照明を開発する」と聞いて、うまく想像できる人はいないかもしれない。

しかしそこには、セラミック粉末と格闘する日々が、電子回路と奮闘する日々があった。

街を照らす理想の光を求め、産みの苦しみに悪戦苦闘する開発者を追った。

  • PERSON 01

    “理想の光”という命題に答えは無い。
    という命題に答えは無い。
    だから面白い。

    M.F/ 光源開発

    2007年入社 名古屋大学大学院 修了

    大学時代は、セラミックフィルターを通して液体に含まれる不純物をろ過する研究に従事。そのなかで巡り合った、セラミックという材料を追求する仕事に就きたいとMARUWAを志望するに至る。入社後はセラミック粉末を使用したLED光源の開発を担当。

  • PERSON 02

    僕の開発した灯が、 今日もどこかの街を照らしている。

    Y.Y/ LED照明器具開発

    2012年入社 富山大学大学院 修了

    大学では電気電子を専攻。学生時代に学んだオームの法則やアナログ電子回路などの初歩的な知識は、現在、回路設計に携わる上で思考の土台になっているという。現在は、得意とする電気系の知識を軸足に、MARUWAオリジナルの電源装置開発に挑むなど、周囲の期待も高い。

PERSON 01

“理想の光”という命題に答えは無い。
という命題に答えは無い。
だから面白い。

M.F/ 光源開発

2007年入社 名古屋大学大学院 修了

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目指すのは、「植物を育てる光」の開発。

今はまだ、ごく個人的な目標の話。私には叶えてみたい「光」がある。それが、植物を育てる光の実現。うん、なんだか聞いたことがあるって人も居るだろう。最近では屋内工場での野菜栽培、という話もチラホラ出始めているから。

でも、本当に「植物を育てる光」を突き詰めていったら、きっとすごいものができると思うのだ。「光合成に必要な光とは?」をとことん追求する。それだけじゃない、例えば植物の発育スピードが倍になるくらいの光を形にできたら……「すごい」と思わないだろうか?

ただの「照明」というだけじゃない。「光利用」という形で世の中に貢献できる光を、自分の手で、LEDで実現できたらと思うと、想像するだけでワクワクしてしまうのだ。

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青色×黄色=白色。
さて何のこと?

そもそもは、LEDのことなんて何も知らなかった。大学時代は化学専攻。研究室で少しだけかじったセラミックに興味を持ち、材料系の知識を追求する仕事をしてみたいと、セラミックメーカーであるMARUWAに入社した。

ところが配属されたのは、当時新設されたばかりの照明事業部。担当を任されたのはLED光源の開発。「光源?それ何ですか?」というのが、率直な気持ち。でも、とにかくやってみるしかないと必死で勉強した。そもそもLEDってどんな仕組みで光っているのか?という初歩的な疑問を解消することからスタートし、関連する文献を手当たり次第に調べ、セミナーがあると聞けばノートを片手に通いつめた。

さて、LED光源とは何か?もともとLEDとは、青色の光だ。元となるLED素子に電圧を加えると青く発光する、これが大前提。ところが、世の中にはあらゆる色のLED照明が存在している。蛍光灯のように白く光るもの、白熱球のようにうっすらと黄色く光るもの、イルミネーションやライトアップに使われる赤色や緑色のものもある。これはなぜなのか?

ここで活躍するのが、蛍光体というセラミック粉末だ。たとえば、「青色に光るLED素子」の上に、「青色の光を受けると白く発光する黄色の蛍光体」を配合する。そうすると、白く光るLED照明が生まれる。うん、言葉にすると非常にややこしい。そして、ややこしい開発に挑み、理想の光を実現するのが私の使命だ。

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光、ヒカリと言うけれど。

我ながら、今までにさまざまな光を手がけてきたと思う。

例えば…「読書に最適の、目に優しい光とは何か?」「美術品を美しく写し、かつ傷めない光とはどういうものか?」「紅葉を、もっと色鮮やかに見せられるのはどんな光か?」

目的に合わせて、蛍光体を3種類、4種類、5種類と絶妙に配合していくのだが、そもそもの問題がある。例えば、「読書に最適な光」ってどんな光?「目に優しい光」と定義するとして、光の色は?強さは?

突き詰めて考えるほど、壁にぶち当たる日々。「目に優しい光」を研究した資料を探し、光の強さを数値化し、改めて「読書に最適な光」を定義したうえで、LED光源を何度も試作する。気付けば私は、奥深い光の世界にどっぷりとハマっていた。

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私の前に果てしなく広がる
“光”の世界。

さて、冒頭で話した「植物を育てる光」の話。実現できるのは、もっと先の話になるかもしれない。でもこの先、光ができることの可能性は果てしなく広がっていくと思っている。例えば「光利用」という観点でいえば、紫外線による殺菌効果で、食物の保存に効果のある光の実現、という夢みたいな話だってあるのだ。

“光”を追求する仕事が面白いと思うのは、こうして、毎回初めての課題に向き合えること。答えを探して、果てしなく広がる“光”の奥深い世界へ身を投じるのはいつも不安だ。でも、「これだ!」という光明を見つけたときの快感が忘れられなくて、今日も悪戦苦闘の日々を続けている。

  • PERSON 02

    僕の開発した灯が、
    今日もどこかの街を照らしている。
    を照らしている。

    Y.Y/ LED照明器具開発

    2012年入社 富山大学大学院 修了

    大学院では、アルミナセラミックの研究に従事した。粉末形状の材料からセラミックシートを形成し、焼成する。奇しくも、MARUWAの事業とまったく同じ作業を小規模で行っていた。入社後はマレーシア工場で製造技術を担当し、スケールの大きな製造現場にて経験を積んだ後、帰国。現在に至る。

PERSON 02

僕の開発した灯が、
今日もどこかの街を照らしている。
を照らしている。

Y.Y/ LED照明器具開発

2012年入社 富山大学大学院 修了

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このICがクセモノなのだ。

今思い返しても、あの時は本当にヤバかった。とにかく毎日、わけもわからず焦っていた。どれほど焦っていたかって、自分が何に焦っているのかも、わからなくなっていたくらいだ。

ことの始まりは、およそ1年前のこと。MARUWAの新商品としてリリースする防犯灯の開発を任された。「防犯灯?」と思った人は、街の電柱を思い浮かべてほしい。上を見上げると、ちょうど真ん中ぐらいに電灯がある。日が暮れると自動で点灯するこの電灯が、防犯灯だ。こうした社会インフラ領域のLED照明はMARUWAの得意分野で、僕が開発を任された新しい防犯灯も、MARUWAの新市場を切り開く製品として期待されていた。

開発の命題はコスト低減だ。周辺環境の明暗を感知するセンサー装置、交流を直流に変換してLEDに流す電源装置、そして主役のLEDモジュール。通常は複数の基板に分けられるこれらの装置を一枚の基板にまとめる。そして、部品点数を削減しコスト低減を図ろうというのが、プロジェクトの骨子だった。

そこで僕は考えた。つまり、センサー機能や電源機能を集約できるICがあれば、理論上は部品点数を大幅に削減できるはずだ。さまざまなメーカーからICを取り寄せ、入念にテストを繰り返し、今回の新製品に搭載するICを選定した。

このICがクセモノだった。

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上司にポンと肩を叩かれたあの日。

そうなのだ、問題はICなのだ。試作品の電子基板に設計図通りの回路パターンを引き、今回のICを搭載し、電気を流す。すると、その瞬間に出力メーターがどんどん上昇し、あっという間に機能停止する。僕は愕然とした。

なぜだ!?事前に、ICメーカーから提供されたサンプル基板でテストした時は、狙い通りの動作をしていたはず。それが、僕の設計した基板に搭載したとたんに動かなくなってしまう。原因がさっぱり分からない。どうしたらいい?どうすれば上手くいく?正直に言うと、この時点で思考停止状態になっていた。

すると、そんな僕を見かねたのか。上司がスッと近寄ってきて、肩をポンと叩いて言った。「慌てなくていい。今回は勉強だと思って、一個ずつゆっくり確かめていけばいいじゃないか」単純なもので、その言葉ですっと肩の力が抜けた。ひっくり返っていた胃が元通りになった気分だった。あのとき声をかけてくれたこと、上司には今でも感謝している。

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人は誰しも、こうして成長していくのだ。

うん、焦らずにいこう。こうなったら、とことん時間をかけてやれ。腹が決まると、不思議と目の前の問題に集中できた。

試したのは、こういうことだ。基板上の部品の定数を一つずつ変えていく。1マイクロファラットの部品が付いているところに、0.01マイクロファラットずつ部品を増やし、定数を変えていくのだ。そうすると例えば、今まで上手く動作しなかったAという回路が正常に動くようになる。ところがその影響で、今度はBという回路の動作が不安定になる。そこで、また同じように部品を変え、様子を観察する。この作業を一つずつ、延々と繰り返していったのだ。地道だ。果てしなく地道だ。ところが僕は、この作業が楽しかった。一つ問題を解決するたびに、「そうか!ここが原因だったのか!」と新たな発見にドキドキした。自分の中に、知識が増えていくことが嬉しかった。

果てしなく続くかと思われた作業にも、終わりはある。開発に携わって約1年。ついに、すべての問題をクリアした。僕はやり遂げた。

結局、開発に従事した約1年間のうち、トータルで半年間ぐらいの時間はモヤモヤと悩んでいたと思う。でも、それだけの成果を感じている。回路と格闘を続けた日々の経験が自分の中で積み重なり、問題に対処する力は、以前より格段に向上したはずだ。

今、少しずつ、僕の開発した防犯灯が世の中に出始めている。どこかの街の路地で、誰かを照らしていると思うと、頑張った甲斐があったと、胸の奥が少しだけ熱くなる。